二十歳のころ 良き友とふたりで飲みに行った
彼はおなじ大学のサークルの同期で
サークルの集まりがあると たいがい行動を共にした
この日もふたりは一緒で
やきとりを食べながら とりとめのない話をしていた
将来の野望
生きる理由のみつけづらさ
語り合い 最後には約束をした
10年後もこうやってふたりで飲みに行こうね
それが 今日だった
*
たくさんの人でにぎわう仙台駅で
何年も会っていない彼をみつけられるのかというわずかな不安は
すぐに裏切られた
たぶんお互いがおなじタイミングでみつけた
10年前より なんだか彼が大きく見えた
彼は「体積が増えた」と言っていた
*
わたしはしらす丼 彼はカツ丼 を食べながら
近況やここ10年の来し方について
互いに報告した
共通の知り合いが結婚したり家族を得たりしたことや
彼自身も恋人と新生活をはじめる準備をしていることを知って
長年多くの知り合いと不通をおしとおしていたわたしは
胸が大きく打った
わたしは自分自身を
10年前と変わらない場所に居つづけるものだと
信じているところがある
*
じゅうぶんに互いの話を聞き合い
ふたたび仙台駅で別れ
マンションまでの帰り道をひとり歩きながら
彼が10年前よりもずっと
しゃべるスピードがおそくなったことに
気づいた
彼はもっと早口だった
早口でわたしの名前をよんで
いろいろな話をわたしに浴びせたんだった
そう気づいたとたんに
10年前の彼がいつも着ていたコートや
10年前の彼が背負っていたやたら四角いリュックや
10年前の彼が振り返って見せる笑った顔なんかが
急にはっきりと思い出された
*
今日のわたしたちの結論は
約束するのがだいじ
約束しなければ
わたしたちはかんたんに会わないまま過ごすことができる
約束するのは勇気が要る
人と会うのは ある意味傷つくことでもあるから
だけど10年前にふたりで交わした約束を
わたしは1日たりとて忘れたことはなかった
生きる希望だった
いまがどんなに悲惨でも
わたしには彼と会う約束がある
そして待ちに待った今日
やっと彼に会うことができた
*
今日目の前にいたのは
10年前の彼じゃなかった
胸は痛む
けれどそれは大きな
よろこびの痛みでもあった
2025.3.8
060 10年後飲み会
