060 10年後飲み会


二十歳のころ 良き友とふたりで飲みに行った

彼はおなじ大学のサークルの同期で
サークルの集まりがあると たいがい行動を共にした

この日もふたりは一緒で
やきとりを食べながら とりとめのない話をしていた

将来の野望
生きる理由のみつけづらさ

語り合い 最後には約束をした

10年後もこうやってふたりで飲みに行こうね


それが 今日だった



たくさんの人でにぎわう仙台駅で
何年も会っていない彼をみつけられるのかというわずかな不安は
すぐに裏切られた

たぶんお互いがおなじタイミングでみつけた

10年前より なんだか彼が大きく見えた
彼は「体積が増えた」と言っていた



わたしはしらす丼 彼はカツ丼 を食べながら
近況やここ10年の来し方について
互いに報告した

共通の知り合いが結婚したり家族を得たりしたことや
彼自身も恋人と新生活をはじめる準備をしていることを知って

長年多くの知り合いと不通をおしとおしていたわたしは
胸が大きく打った

わたしは自分自身を
10年前と変わらない場所に居つづけるものだと
信じているところがある



じゅうぶんに互いの話を聞き合い
ふたたび仙台駅で別れ
マンションまでの帰り道をひとり歩きながら

彼が10年前よりもずっと
しゃべるスピードがおそくなったことに
気づいた

彼はもっと早口だった

早口でわたしの名前をよんで
いろいろな話をわたしに浴びせたんだった

そう気づいたとたんに
10年前の彼がいつも着ていたコートや
10年前の彼が背負っていたやたら四角いリュックや
10年前の彼が振り返って見せる笑った顔なんかが

急にはっきりと思い出された



今日のわたしたちの結論は

約束するのがだいじ


約束しなければ
わたしたちはかんたんに会わないまま過ごすことができる

約束するのは勇気が要る
人と会うのは ある意味傷つくことでもあるから

だけど10年前にふたりで交わした約束を
わたしは1日たりとて忘れたことはなかった

生きる希望だった
いまがどんなに悲惨でも
わたしには彼と会う約束がある

そして待ちに待った今日
やっと彼に会うことができた



今日目の前にいたのは

10年前の彼じゃなかった

胸は痛む
けれどそれは大きな
よろこびの痛みでもあった


2025.3.8